入学・配属を希望する皆さんへのメッセージ

 JAIST佐藤研究室に興味をもっていただきありがとうございます!
大学院大学であるJAISTで誕生した佐藤研は、佐藤の出身分野である情報系のみならず、文理問わず様々な専門分野で育った学生さんを積極的に受け入れています。 以下は、佐藤研究室で大学院生活を送ることを検討している皆さんへの佐藤からのメッセージです。

そもそも、JAISTって一言でいえばどんなとこ?

JAISTという大学院大学は、一言でいうと、日本政府が「新しい大学院教育制度」を「とりあえずやってみよう」と思って作ったパイロットスクールでした。アメリカ式の様々な制度をいち早く採り入れてみて、「もしJAISTでうまくいけば、日本中の大学・大学院でも採用しよう」というようなモチベーションのもと、これまで4学期制や100分授業、ゼロからでも学びなおせる授業設計等々、様々なアメリカ式の制度がJAISTに試験的に実装され、現在では日本中の様々な大学に広まりつつあります。
その中でも、特にJAISTで最も特徴的なのが、専門知識を問う筆記試験等を行わない「面接のみの入学試験」です。そもそも、なぜJAISTはこのような入試制度を取り入れているのでしょうか?

実はJAISTは、これまでとは全く異なる分野に飛び込む「異分野転向」、また今の専門分野に新しい分野の血を混ぜる「分野融合」にチャレンジしたい学生さん達を応援する特別な教育研究機関(大学院大学)だからです。これもアメリカ式の「分野混合文化の推奨」また「入ってから鍛えなおす」という考え方などにも基づいています。ですので、JAISTの最大の強みは一言でいうと「分野多様性」です。分野多様性を担保するのは、国内外の様々な大学・様々な分野から集まる学生のみならず、JAISTの教員にも当てはまります(特に知識系は様々なバックグラウンドの先生方がいらっしゃいます)。既に確立された一つの分野で伝統的なルールに則り道を究めることも素晴らしいのですが、JAISTでできることは自分に合わせた分野選択(分野合成)であり、これは自分の「こだわり」に沿った自分ならではの新分野創造のための大きな一歩でもあると考えます。
なお、JAISTには学部が存在しないため、内部進学者は一人もいません。全員が「はじめまして」からのスタートです。これは同じ志、多様な考え方をもつ学生同士がゼロベースで新たな人間関係を構築するのに最適な環境でもあると言えます。

ちなみに、佐藤は大学(電通大)学部時代、情報工学科の学生(プログラミング、特にゲームプログラミング大好き人間)でしたが、4年生で運命的に大学院大学(電通大の独立研究科)に卒研配属されたことから、それまでの情報工学という専門分野から新しいHCIという専門分野に軌道修正されました。つまり、それまでの計算機中心の考え方に「人間味(人間中心)」の要素が新しく加わったということです。これはまさに、大学院大学で自分の専門分野に新しい血が混ざったことだと言えると思います。

佐藤研の専門分野、「Human-Computer Interaction(HCI)」分野の紹介

Human-Computer Interaction分野は、一言でいってしまうと「コンピュータを使いやすくする技術を研究する分野」だと言えます。ただこの説明は、佐藤が育ってきた情報系・理工系分野において、計算機の入出力機能、特に我々(人)が直接見たり触ったりするコンピュータの「ディスプレイ」と「入力インタフェース」に関する技術に着目した説明といえます。 一方で、HCIには例えば社会科学(認知科学・心理学)系の視点からなされる研究や、これらを技術と融合させた研究もあり、とにかくとても広い分野であると言えます。では、その広いHCI分野の中で佐藤研はどういうHCI研究を行っているかというと、今のところ次のようなものであると言えます。

佐藤研的HCI研究1: 技術系HCI研究

まず1つ目は、佐藤が学生時代から現在まで一貫して行ってきた、情報・工学的視点でのHCI研究、つまり「テクノロジーベースのHCI研究」です。具体的に、「未来の革新的な対話型ディスプレイ技術をゼロから考え」、「それを実現するシステムを実際に試作し」、最終的に「それらを体験してもらい、評価することで論文を書く」ことが研究プロセスに含まれるようなHCI研究になります。これは例えば(あくまで一例ですが)、何か面白い技術や誰も持ってないような面白いデバイス等があったとして、じゃあ「それで何か(HCI的に)面白い物を作ろう!」的なモチベーションで始めるHCI研究です。これは技術が好きで、特にそれを自分の手で理解し作りあげるのが好き、さらにそれを人に見せて楽しませ、共感してもらうのが好きな人なら、だれでも楽しみながら参加してもらえる研究活動だと思っています。(もちろん、私自身がものづくりが好きな人間として楽しみながら研究しており、「ものづくり」が好き・得意な人に是非おすすめしたい研究室だと思っています。)
また、大学の研究室では「論文を書く」ことが最終目標となりますが、佐藤研ではこの新技術の提案、試作、評価を行う(そのためのプロジェクトを立てて進める)ことが、まさに論文を書くことのために行っている日常業務だといえます。

佐藤研的HCI研究2: 知識科学的な研究ビジョンの探求
2つ目は、未来のコンピュータのディスプレイ・インタフェースの「ビジョン」を探求する研究活動です。実は、1つ目の個々の研究(論文)は、「ビジョン」という太い幹から生える、小さな枝葉だといっても過言ではありません。個々の新技術は、例えば流行りの技術や既存研究を部分的にマネたり、いくつかを組み合わせたりするようなことで生み出したりすることは可能で、それでよい論文を書くこともできます。ただ、「研究」には、一貫したテーマを持ちつづけ、それを長期的に探求することも重要となり、それができれば、ユニークな新技術を、一つの独自ビジョンから無数に生み出すこともできるようになります。

もちろん、ビジョンを持つうえでは、より太い「独自の視点」や「深いこだわり」を持たなければならず、ビジョンをこの分野に入ってきたばかりの学生さんが持てるのかというと、なかなかそれは難しいとも思います。恐らく、修士で入って来ても、独自のビジョンを持てるようになるのは、博士後期課程を修了する以上の時間が必要ではないかと思います。
また、この「ビジョン」は、知識科学的にいう「暗黙知(言語化が難しい感覚的な知識)」が大部分を占めている場合もあり、これを形式知化(だれでもわかるように言語化するなど)して伝えるということ自体とても難しいことだと思います。なので研究室のビジョン自体の形式知化を、そもそも積極的に行っていない研究室もあるかもしれません。
そんななか、佐藤研では、やはり「知識科学」の学位を出している研究室として、このビジョンの形式知化と研究室内(教員・学生間など)での共有を積極的に行い、教員・学生が同じ視点を持ったうえでの研究議論・アイディア出しなどが行えるようにしています。
しっかりとしたものづくり技術があり、そこに独自の研究ビジョンが加われば、どんなひとでも世界レベルで活躍できるHCI研究者になれると私は思っています。

Human-Computer Interactionと「知識科学」

JAIST独自の学修分野(学系)に「知識科学(系)」があります。聞きなれない分野だと思いますが、JAISTはこの「知識科学」の学位を出す唯一の研究機関であり、佐藤研究室はまさにこの知識科学系に所属している研究室です。では、この「知識科学」が、佐藤研的HCI研究とどのような関係があるのでしょうか?なぜ佐藤研は「情報科学」ではなく、「知識科学」なのでしょうか?

これは、まずHCIが「計算機中心」の研究分野ではなく、「人間中心」の分野であることが挙げられます。特にHCIは「人が使う道具としてのコンピュータを使いやすくする技術を生み出すことを目指した分野」ではなく、「人(のいる実世界)」と「コンピュータ(の中にあるサイバー空間)」の間にある障壁(ディスプレイ)を取り除き、究極的には「人」と「コンピュータ(を介したあらゆる物)」を融合させたうえで、さらにその世界で「人(自分)がどう(幸せに)生きていけるか」まで考える必要のある分野であるからです。

また、これを研究として行っていくためには、技術のみならず、現在のコンピュータや人間、知識社会の在り方、また過去の研究ビジョン等々に対しても自分ならではの「気づき」や「問題意識」、また言語化が難しいような「違和感」や「こだわり」のようなものですらも含めて自分の中に持っておく必要があると考えます。さらに、これらの人の内面にある知識(暗黙知)をさらに尖らせて形式知化し、未来ビジョンとして活かしていくことが佐藤研的HCI研究には必要になってきます。

佐藤研をおすすめしたい人

まずシンプルに、新しい技術や表現(ゲーム、AR/VR、電子工作、ロボット、メディアアート等々なんでも)に深い興味を持ち、それらをただ眺めるだけでは満足できず「自分でも作ってみたい」という思いが胸にある方であれば、佐藤研究室で楽しい研究生活がおくれるはずです。特に、学部・高専時代などに技術系・ものづくり系のサークルに所属していた方は、その技術力・試作開発力のアドバンテージを存分に活かすことで、短期修了を狙うことも可能であると考え、特にお勧めします!
また、サイバー空間にある「情報」に実体を与え、情報の存在感を全身(五感)を使って感じられるようにしたい等の実世界指向的な研究ビジョン(TUIやその先にある佐藤研の研究ビジョン)に共感していただき、一緒に新しい未来ビジョンを考えていきたい方も歓迎します。佐藤研では教員・学生間で研究ビジョンの共有を行ってからの深い議論を大切にしているため、「研究者視点」での新しい世界が見えてくるはずです。
さらに、認知科学・心理学等の、特に人間の知覚メカニズムに興味があり、その分析手法やHCI分野での応用研究(人の知覚特製を活かした新しい対話型システムの提案などなど)に興味のある方も歓迎します。佐藤研の研究プロジェクトはチームで行うため、非技術系分野出身者であっても技術な得意なメンバーと協力しながら研究を進めていくことが可能です。
なお、最近注目しているテーマや各研究プロジェクトの紹介についてはこちらこちらをご覧ください。是非自分が興味のあるプロジェクトをさがしてみてください。

修士での対外発表を目標とした研究指導

 佐藤研の研究指導は、修士論文執筆を目標とした研究指導ではなく「修士2年間での対外論文発表」を目標とした指導を行っています。対外的な論文発表が可能であれば、例えそれがチームプロジェクトであったとしても、各メンバが個別の修士論文を書くことは容易であると考えています。(※これはあくまで佐藤研内での目標で、他の研究室の先生方はそれぞれ独自の指導方針をお持ちだと思います。)もちろん、学会発表の締め切りは修士論文提出締め切りより早く設定されているため、研究ペースも少しはやくなってしまいます。
しかし、「研究の楽しさ」を知るためには、頑張って考え・作った発表成果を外に出し、多くの人から共感を得ることにつきます。特に、ものづくりのプロセスを含む佐藤研的HCI研究においては、作ったものを多くの人に体験してもらい、共感(笑顔)を得る瞬間は、これまでの苦労が報われ、作り手(技術者・研究者として)の幸せを感じことのできる瞬間です。これはまさに「研究の楽しさ」を知るということであり、その後の研究へのモチベーションをさらに高めてくれる貴重な体験であると考えます。

しかし、研究を4年生の卒業研究からスタートできる他の大学とは異なり、大学院(修士課程)からスタートさせるJAIST生が使える時間はたった2年間しかありません。さらに、単位取得や就職活動、企業へのインターンシップ等への参加を考慮すると、研究に割ける時間はさらに短くなってしまいます。(もちろん、博士後期課程に進学することでこの問題は解決できるため、佐藤研では後期課程への進学を前提とした修士からのスタートを強くお勧めします!)

そこで佐藤研では、これらの限られた研究期間を最大限有効に活用するために、例えば4月からの研究スタート制度や、チームでの研究プロジェクト制度、プロジェクトの掛け持ち制度、その他小手先の工夫を含めた様々な独自制度を普段の研究室運営に導入しています。
(例えば、研究プロジェクトを進めるうえで直面し頭を悩ませる様々な課題も一人で孤独に悩み続けなくて良いように、佐藤研では先輩・後輩問わず集まる「議論の場」に持ってきてもらいチームで考えて解決を目指します。これを行うためにも、研究室メンバー全員が個々のプロジェクトのメンバーとしてプロジェクトの研究ビジョンをしっかり共有できるように、様々な発表・議論の場を普段の研究生活の中に積極的に設けています。)

この研究で身につく能力

 佐藤研究室では、Human-Computer Interaction(HCI)分野を軸足に、専門的な考察を重ね、「実空間とサイバー空間をまたぐ革新的な体験」を提唱します。さらに、それらを最速で体験可能な実システムに落とし込み、速いペースで国際的な場での研究発表を行っていきます。これらの過程で、独自の視点での未来ビジョンの共有、それに基づいてゼロからアイディアを生み出す能力、それを鋭く研ぎ澄ます能力、アイディアを具現化するソフトウェア・ハードウェアをまたぐプロトタイピング(最速の試作開発)能力、研究の価値・ビジョンをわかりやすく表現し伝える能力、デモのよろこび、またそれが共感され研究の苦労が報われる最高の瞬間等々、その他様々な知識と能力を身につけることができるはずです。また、この過程で「研究の楽しさ」にも気づくことができれば、研究者の道も開けてくるはずです。

その他、疑問点などがあれば

 是非、随時メール(tsato@jaist…)等やオープンキャンパス等で直接ご相談ください。JAISTの様々な制度を使えば、遠方の方も直接お話をする機会を作りやすくなると思います。

是非こちらもご覧ください:

入試・配属Q&A
佐藤研独自の研究指導方針
佐藤研の新入生(&学部生)向け講習会の紹介